研究概要 |
皮膚創傷治癒および創部における末梢神経再生に及ぼすTNF-αの効果について,2型糖尿病マウス(C57BL/KsJ db/db Jcl)を用いた実験を行った.マウス背部を剃毛後作製した全層切除創(1cm^2)に対しTNF-α(10ng,100ng,1μg,10μg/10μl)を滴下し,コントロールとしてPBSのみを滴下した群と共に潰瘍面積の測定と創部皮膚採取を経時的に行い,潰瘍面積の縮小率,潰瘍部の浸潤細胞,神経の新生について比較検討した. 1)潰瘍の縮小率:コントロール群とTNF-α100ng群間において滴下後11日目の潰瘍面積の縮小率に有意差が認められ(p<0.05),TNF-αによる創傷治癒の促進効果が示唆された.一方TNF-α10μg,1μg滴下群では逆に11日目より潰瘍面積は有意に拡大し、全く治癒傾向は認められなかった. 2)潰瘍部の浸潤細胞:滴下14日目のコントロール群とTNF-α100ng群のHE染色標本を比較すると,前者と比較して後者では成熟した肉芽の形成か認められた.そこで炎症の指標として,顕微鏡下400倍10視野(表皮4視野,真皮上層3視野、真皮下層3視野)における好中球、好酸球,リンパ球数を測定した.真皮下層における好中球,好酸球の浸潤数には有意差が認められ,コントロール群における真皮下層での炎症の遷延と,TNF-α100ng群における肉芽形成促進と炎症性細胞の減少が示唆された. 3)神経の新生:滴下14日目のコントロール群とTNF-α100ng群のホルマリン固定,パラフィン切片をanit-Neurofilament protein(Dako)を用いて蛍光抗体法にて染色し,神経線維の新生,再生をみた.コントロールと比較してTNF-α滴下標本において,上皮化した真皮内に陽性所見が散見された.以上の結果より至適濃度のTNF-α使用で創傷治癒の促進がみられることが考えられた.
|