研究概要 |
本研究は肝や筋細胞において外部刺激によって制御可能なインスリン発現ベクターと,効率よいDNA導入法を開発し,小動物を用いた治療実験を通じて糖尿病の遺伝子治療に重要な基礎データーを提供することを目的とする。我々は既に正常のプロインスリンをB鎖-Cペプチド間,Cペプチド-A鎖をどの細胞にも広く存在する切断酵素Furinの切断部位に変異させたプロインスリンDNAを作成した。このDNAを導入した細胞は,内分泌細胞でも非内分泌細胞生理活性型インスリンを産生する。そこでこのインスリンDNAの発現をグルコース又はインスリンで制御できるようにPyruvate kinase(PK)とPhospho enolpyruvate carboxykinase(PEPCK)のプロモーター下に組み入れた。グルコースとインスリンは各プロモーターの発現を右図のように制御する。グルコースで遺伝子発現を調節するためにはグルコーストランスポーターII型(Glut2)をもつ肝細胞を用いなければならない。ところが初代培養肝細胞へのDNA導入効率はリポゾーム法を用いても全細胞の1%前後であった。そこで現在DNA導入効率の優れているアデノウイルスベクターにインスリン発現ユニットを組み入れている。次の方法として我々はインスリンでネガティブフィードバックのかかるPEPCKプロモーター下にインスリンDNAを組み入れ,インスリン受容体を豊富にもつラット肝細胞培養株H4IEで発現させた。PEPCKプロモーターはcAMPとグルココルチコイドで活性化される。そこで培養液にdibutyl-cAMP(dbcAMP)とDexamethason(Dex)を加えた。その結果添加細胞群と非添加細胞群のインスリンmRNAをノザンブロットで解析したところ大きな発現の差を認めた。更にこの発現はインスリンを添加することにより完全に抑制された。現在この制御システムを増強するためPEPCKプロモーターを複数組み入れたインスリン発現ベクターを作成している。
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