前年度に引き続き脳死としたドナーを心停止させた後に心肺を摘出し右肺、左肺の順に両側肺を一期的にレシピエントとなるサルに移植する実験を行った。 (方法)ニホンザルを用いて脳死心停止後に心肺を潅流・摘出し移植を行った。脳死は前年度に報告した方法により作成し、脳死状態を6時間維持した後に人工呼吸器を停止して心拍動を停止させた。心停止後、我々が開発したEP4液にPGI_2を添加して両肺を潅流後に欧米で行なわれている臨床肺移植の手技に準じて心肺を摘出し、直ちに右肺、左肺の順に一期的両肺移植を行った。術後は人工呼吸器にて48時間呼吸管理を行い、その間、動脈血ガス分析と肺動脈圧、心拍出量の測定をおこなった。その後自発呼吸に戻して観察した。免疫抑制にはシクロスポリン、アザチオプリン、メチルプレドニゾロンを用い、定期的に血中のサイクロスポリン濃度を測定して有効血中濃度を維持するように投与量を調節した。。 (結果)前年度に引き続きコントロール群を追加して5例とし、脳死後心停止群4例と比較検討した。術中死の1例を除き、コントロール群では4例が手術に耐えた。このうち1例が気胸により死亡したが、3例が人工呼吸器から離脱して移植肺のみで生存可能であった。脳死後心停止群4例は、すべて人工呼吸器から離脱し酸素投与なしの自発呼吸にて生存が可能であった。コントロール群で人工呼吸器から離脱した3例中2例は術後9日目と20日目に誤嚥および消化管出血のため死亡した。残る1例は術後50日目に犠牲死とした。脳死後心停止群では1例が術後3日目に呼吸不全のため、2例が5日目に肺静脈血栓症のために死亡したが、残る1例は術後91日間生存した。手術直後から人工呼吸器離脱までの動脈血酸素分圧ではコントロール、脳死心停止の両群間に有意な差を認めず、ともに良好で安定した経過をたどった。また、ドナー(正常動物)および実験群での移植直後、12時間後の肺動脈圧にも有意な差を認めなかった。全肺血管抵抗はドナー(正常動物)に比して移植直後で上昇を認めたが、12時間以降には低下し、コントロール、脳死心停止の両群間に有意差はみられなかった。 (結論)これまでの結果から脳死後心停止ドナーからの摘出肺が心拍動下に摘出された肺と同等に移植後生存に十分な機能を維持できることが確認された。
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