脳死後心停止ドナー肺を用いたニホンザル一期的両移植を行い、術後36時間の移植肺の機能を評価し、脳死後心停止ドナー肺の臨床応用の可能性を検討することを目的に研究を行った。実験群を以下の2群とした。ひとつはコントロールとしてドナーを脳死とせず、心拍動下に両肺を潅流・摘出しレシピエントに移植した心拍動群、あとひとつは脳死としたドナーを心停止させた後、両肺を潅流・摘出し移植を行った心停止群とした。 脳死は硬膜外腔にてバルーンを拡張させ、頭蓋内圧亢進状態により作成した。両群とも心肺の潅流には我々が開発したEp4液にPGI2を添加して用いた。 心拍動群、心停止群それぞれ6回の移植実験を試み、一期的両側肺移植に耐えたものは第I群、第II群ともに6例中5例であった。 移植後36時間までの動脈血酸素分圧、肺動脈圧、動肺コンプライアンスは両群とも安定しており、第I、II群の間には有意差はみとめられなかった。全肺血管抵抗は移植直後に上昇したが移植後12〜24時間経過して低下していく傾向があり両群間に有意差はみられなかった。 肺機能評価後、自発呼吸にて生存できたものは心拍動群では4例、心停止群では5例あり、そのうち心停止群では最長94日生存し得た。 長期生存した症例では組織学的には、拒絶反応の進行を認めたが、ドナーの条件の違いによる移植肺の変化は認められなかった。 本研究によって、脳死後心停止ドナー肺によって移植直後から心拍動下摘出肺と比べて良好な動脈血酸素分圧、肺動脈圧、全肺血管抵抗、動肺コンプライアンスが保持されること、組織学的検索において脳死後心停止による変化が移植後認められないこと、術後自発呼吸による長期生存が可能なことを示した。 以上より臨床における脳死後心停止ドナーの肺移植への適用の可能性が確認された。
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