研究概要 |
本研究を遂行する上で我々は、粘液嚢胞発症のメカニズムを以下の作業仮説のもと検証することとした。1.嚢胞の発生・拡大には周囲結合組織を分解するため、ある種の細胞からの蛋白分解酵素活性の上昇が必要である。2.蛋白分解酵素活性の上昇を引き起こす分子としては、Transforming growth factor-β1(TGF-β1)などの生体内に普遍的に存在し、かつ臓器の形態形成に関与する分子である。まず、上記の仮説1.を実証するため実際の患者から得られた粘液嚢胞内容液について、それに含まれる蛋白分解酵素活性を検索した。その結果、内容液中には正常唾液に比較して著しい蛋白分解酵素活性の上昇が検出された(Azuwa M.J.Oral Pathol.Med.;1995,in press)。従って、我々の作業仮説1.は実証されたものと考える。次に仮説2.についてin vitroとin vivoの実験系を用いて検証した。すなわち、SV40 DNAにより不死化された正常ヒト唾液腺導管上皮細胞(NS-SV-DC)を1ng/ml或いは5ng/mlのTGF-β1にてin vitroにおいて処理した後、基底膜成分から構成されているマトリゲルと混和し、ヌードマウス背部皮下に移植し、形成物につき検索したところ、5ng/mlのTGF-β1にて処理されたNS-SV-DCにおいてのみ嚢胞様構造を構築した。この際の細胞より分泌されるコラゲナーゼとtissue inhibitor of metalloproteinases-1(TIMP-1)活性につき検索したところ、TGF-β1(1ng/mlと5ng/ml)処理によりコラゲナーゼ活性の上昇は認められたが、TIMP-1については変化が認められなかった。更に、TGF-β1、72-kDaコラゲナーゼ(MMP-2)とTIMP-1のmRNA発現につき解析したところ、5ng/mlのTGF-β1により処理された細胞においてのみ、TGF-β1とMMP-2のmRNA発現の上昇が認められた、TIMP-1のmRNAには変化が認められなかった。この所見はヌードマウスでの嚢胞形成の結果と合致するものであり、我々の作業仮説2.も実証されたものと考える。従って以上の結果より、当該年度の目標は達成されたものと言える。
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