研究概要 |
医薬・農薬あるいは液晶材料にいたるまで光学活性化合物の利用範囲は極めて広い.その供給において遷移金属触媒を用いた触媒的不斉合成法の開発は最も合理的な戦略である.そして触媒的不斉合成の成否は優れた光学活性配位子の開発にかかっている.われわれはこれまでに一連の光学活性フェロセニルホスフィンの開発や新しい触媒的不斉合成反応の開発につき精力的に取り組んできた.その過程において新しい機能を持つ光学活性配位子の必要性を認識し,その設計・合成をここ数年検討している.その結果到達したものがMOPである.MOPは軸不斉ビナフチルを基本骨格にもつ単座ホスフィン配位子であり,従来の光学活性二座ホスフィン配位子ではこれまでなし得なかったタイプの触媒的不斉反応を可能にすることができる. 平成6年度には光学活性なビナフトールを出発原料とした種々の官能基を含む単座ホスフィン配位子MOPの合成法を確立した.即ちビナフトールをジトリフラートととし,このうちの一つのトリフラートをパラジウム触媒によるジフェニルホスフィンオキシドを用いた置換反応により選択的にホスフィニル基に変換し,もう一つのトリフラート基をアルコキシ,カルボキシル,アミノアルキル基などの官能基に変換する工程である.反応条件などに改良を重ね,例えばメトキシ基を含むMOP配位子はビナフトールから90%以上の収率で合成できるようになった. スチレン誘導体のヒドロシリル化などMOP配位子を用いたいくつかの新しい触媒的不斉合成反応の開発にも成功した.
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