研究概要 |
光学活性化合物の有用性は,医薬・農薬などの開発をはじめ,多岐に及んでおり,その効率良い合成法の確立は有機合成化学上の重要な研究課題である.特に,触媒的不斉合成反応は潜在的効率性の高さから最もその開発が望まれている.我々はこれ迄に,遷移金属触媒を用いた触媒的不斉合成反応の開発研究に取り組み,その中で触媒上に高度な不斉空間を構築する新しい不斉配位子の設計・合成に取り組んできた.光学活性モノホスフィン配位子MOPは新しい概念に基づき設計され,他の不斉配位子には見られない高い不斉誘起能や触媒活性を発現する.本研究ではこのMOP配位子およびその類縁化合物の効率良く供給経路の確立と同配位子を利用した不斉反応系の実用性の探索を目的としてきた。昨年度までにほぼ実用に適用し得る合成ルートを確立し,今年度はそのより大量スケールでの合成を行ない確立ルートの再現性などを確認した.またMOPの類縁体合成についても検討しこれまでに報告してきたMOP誘導体以外に約10種の新規な類縁体合成を行なった.これにより,我々が開発した合成ルートの柔軟性がさらに確認されるとともに,MOPの2′位及びリン元素上の置換基導入にさらなる可能性を拓いた.設計・合成した新規誘導体はスチレン類などを基質としたパラジウム触媒オレフィン類不斉ヒドロシリル化反応において効果を示し,最高98%eeの生成物を定量的に与える反応系の開発へと繋がった.
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