様々の蛋白質が、プロテアーゼによって切断されることにより、活性化・不活性化・形態変化といった機能修飾を受ける。この作用は不可逆的であるために、生命現象の多くの局面で決定的役割を担っている。このような生体内のプロテアーゼによる制御系を把握するうえで、個々の蛋白質分解反応過程を捕捉し、定量的および空間的情報を得ることは、不可欠である。しかしながら、今日まで、生理・病理現象における蛋白質分解反応を空間的に捕捉することは、事実上不可能であった。この問題を解決するために、新しいアプローチを開発した。すなわち、個々の蛋白質分解反応産物を特異的に認識する抗体を調製する確度の高い方法を確立した。その結果、免疫化学的手法によって、様々のプロテアーゼ反応を現場で押さえることが可能となった。本研究によって、世界で初めて蛋白質分解反応を空間的に捕捉することが可能になったと言える。具体的には、脳虚血におけるカルパインの作用やアルツハイマー病におけるβアミロイドペプチドのプロセッシングをはじめとする様々の現象の解析に応用し、多くの新知見を得た。今後、これらの疾患の予防・治療法の開発へと発展する可能性が期待される。本研究法は全世界的に応用・模倣され始めており、プロテアーゼ研究の方法論を変えつつある。科学研究費による補助によって、日本における研究がオリジナルであることを世界に示すことが出来た。
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