研究概要 |
化学療法は癌の有効な治療のひとつであるが、ほとんどの抗癌剤が効かなくなる多剤耐性の問題は癌化学療法の大きな障害となっている。最近、P-糖タンパク質が抗がん剤の細胞外排出を行うポンプとして機能していることが明らかとなってきた。従って、多剤耐性を克服するためにはP-糖タンパク質の機能を阻害する物質が有効と考えられる。そこで本研究では、天然物を素材として多剤耐性癌に有効な耐性克服作用をもつ化合物の探索を検討した。以下に本年度の研究成果の概要を報告する。 薬物植物、海洋動物、微生物の抽出物について、ヒト卵巣癌の多剤耐性発現株2780AD細胞を用いて、その細胞内の抗癌剤ビンクリスチンの蓄積増加量を指標としてスクリーニングを行った。その結果、日本産イチイTaxus cuspidataより22種のタキサン骨格をもつ新規ジテルペン化合物タキサスピンA〜HおよびJ〜Wを分離した。このうちのタキサスピンB,C,Jおよび数種の既知タキサン化合物に上記耐性発現細胞においてビンクリスチンの蓄積増強作用が認められ、その強さは既知のP-糖タンパク質機能阻害物質として知られるベラパミルとほぼ同等であった。タキサスピンB,C,Jには、構造の類似した抗癌剤タキソ-ルのような顕著な微小管脱重合阻害作用や殺細胞活性は認められなかった。次に、活性の認められたタキサン化合物について、P-糖タンパク質とアジトピンとの結合阻害実験を検討した結果、これらの化合物は、P-糖タンパク質とアジトピンの結合をベラパミルと同程度か、それ以上の強さで競合的に阻害することが明らかとなった。今回数種のタキサン化合物にP-糖タンパク質機能阻害作用を見い出し、そのうちベラパミルに匹敵する作用をもつタキサン化合物には、P-糖タンパク質とアジトピンとの結合を競合的に阻害する作用が認められた。また、タキサスピンDには、タキソ-ルの1/2〜1/3程度の微小管脱重合阻害活性が認められた。さらに、タキサスピンEにヒト上皮がん細胞KBに対して強い殺細胞活性が認められた。今後さらに新たな活性物質のスクリーニングを行うとともに、活性発現に重要な構造因子の特定を行うことにより、抗がん剤耐性克服薬の開発をめざした優れたリ-ド化合物するとともにin vivoでの耐性克服能を検討したいと考えている。
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