研究概要 |
ペプチドホルモン等の有用蛋白質を、大腸菌で効率よく発見・分泌生産させることを究極の目的として、分泌効率を左右する要因を明らかにすることを試みた。 大腸菌の蛋白質分泌装置の中心部分は4種類のSec因子(A,Y,E,G)で構成されている。このうち、SecAはATP分解活性をもつ可溶性の因子であり、他の3因子はすべて膜内在性である。SecGは膜透過効率を著しく上昇させる分泌因子であり、この分子機構を明らかにすることが分泌の生産性向上には重要と考えられる。SecG遺伝子破壊株は、低温での蛋白質分泌に欠陥をもつ。これを回復させるマルチコピーサプレッサーの検索により、酸性リン脂質の合成に関与するPgsA,およびシャペロン機能をもつSecBの大量発現がSecG機能を低温で相補することを見出した。また、SecGは蛋白質分泌時には、その膜内配向性が反転・復帰を繰り返していること、この構造変化により、SecAの膜内への挿入・脱離を促進していることを示した。SecAの挿入・脱離は蛋白質分泌の原動力となっていることから、SecGによる分泌促進の機構が明らかになったと考える。また酸性リン脂質は、SecAの機能に重要であることが知られており、SecG同様SecAの挿入を促進している可能性が考えられる。SecBの大量発現により、SecG遺伝子破壊株は低温での生育が可能となったが、分泌蛋白質の細胞内蓄積量はむしろ上昇していることを見出した。SecBはシャペロンとして前駆体蛋白質と結合し、分泌装置に送り込まれる前駆体量を調節していることが考えられる。
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