研究概要 |
本研究は遺伝子の転写過程をイメージングするための方法論を確立するために計画された。昨年度急速凍結分子蒸留乾燥装置の開発に着手し、性能の良い装置を作り上げた。これを用いてDNAなどを凍結乾燥し、原子間力顕微鏡で観察したが、画質は改良されたものの、新しい知見はえられなかった。これは乾燥装置の性能によるのではなく、明らかに試料の動きや探針の形状から来る原子間力顕微鏡の分解能の低下と考えられる。むしろ、開発した装置は免疫細胞化学法、特に水溶性物質の免疫染色に有用であった。したがって、DNAやDNA結合蛋白の構造解析はもっぱら低角度回転蒸着法に依存した。我々は分解能の高い蒸着像を得るために高真空のフリーズエッチング装置を開発した。高真空でしかも低温(-110℃)にすることで極めて良質の蒸着像を得ることができた。この方法により現在はDNAラセン構造の1/2ピッチ(5塩基対)を一つの単位として再現良く観察できるばかりでなく、最適な蒸着量の時は塩基対も観察できるようになった。昨年度はCREBとソマトスタチン遺伝子プロモーターとの結合様式を明らかにし、本年度は大腸菌RNAポリメラーゼの構造とミュータントDNA(UV5)との結合にはじまる転写過程の構造解析を試みた。既に生化学的にRNAポリメラーゼはβ,β′αα,σの各サブユニットからなることおよびそれらの分子量が明らかであるので、それらを指針にして低温低角度回転蒸着法で得られたドメイン構造を同定した。RNAポリメラーゼには二つのチャンネルがあるが、ひとつはββ′と2αの間にある大きなチャンネルであり、もうひとつはβとβ′との間にスリット状に存在するものである。DNAと結合させたのち、低角度回転蒸着法で観察するとα,β間の大きなチャンネルにDNAが入り込むので、もう一つのチャンネルはmRNAの出てくるところと結論ずけられる。
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