研究概要 |
回折強度測定の精度をあげることは、単に得られる電子密度の精度を高めるには止まらず、位相決定の可能性を拡げる。振動法による強度測定の精度を下げている主要な要因は、振動幅の大きさである。ウシ心筋チロクロム酸化酵素の結晶では、高エネルギー研究所放射光実験施設のBL6A2で得られた回折斑点のモザイク幅は0.1°以下であった。従って、もし2.0°の振動幅をとれば、一つの斑点について1.9°はノイズを積算するだけで、測定精度の低下をもたらしている。振動幅を少なくすれば精度の向上を期待できるが、処理すべきイメジングプレート(IP)の枚数が増加する。また、振動幅がモザイク幅に近ずくと部分反射が増えて回折斑点の処理が困難になる。そこで、これらが妥協できる実験条件を設定した。ウシ心筋チトクロム酸化酵素の2.8Åの強度測定では、振動幅を1.0°に設定して1個の結晶で90枚のIPを処理した。その結果、Native結晶では2.8ÅでRmerge=7.8%の回折強度を得た。3種の重原子誘導体とのRisoは3.0Å分解能でそれぞれ7.3%,5.7%,9.0%と小さかったが、差のパタ-ソン関数は導入した重原子に由来する明瞭なピークを与えた。非対称単位は40万を超える分子量を含んでいたが、測定精度をあげた結果、通常の重原子同型置換法によって構造決定を行なうことが出来た。 ウシ心筋のチトクロムc酸化酵素の2.8Å分解能の結晶構造解析によって、2つのヘム、CuA部位、CuB部位及びZn部位を確定した。13種のサブユニットをすべて構造決定することもできた。この結晶構造解析では分子量40万の2量体の構造を決定したことになり、最も大きな分子の構造決定の一つである。また電子伝達の経路も見つかった。
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