本研究は、分担者の広田のヒドロキシアパタイトの高圧低温焼結法を応用して、アパタイトと牛由来コラーゲンおよびヒアルロン酸とを低温で焼結する方法を開発することを目的として、世界に先駆けてこれに成功した。 動物の骨格はアパタイトとコラーゲンの複合体であり、靭性強度がセラミックス単体に比べて高く、かつ弾性、粘性もはるかに高いうえに天然骨は常にリモデリングしている。アパタイトと有機質を複合して燃結し、リモデリングしやすく粘弾性のある人工骨を開発することは夢とされていた。 我々はこの人工骨を、進化の各ステージを代表とする生物(水棲の原始脊椎動物の軟骨魚類のサメ、円口類のヌタウナギ、鳥類のウズラ、哺乳類の成犬など)に移植し、生体力学環境下で組織反応の観察を行った。 牛由来のコラーゲン複合アパタイト低温sintering人工骨を哺乳類(成犬)とサメに移植した結果、哺乳類で著明な組織反応と細胞レベルの消化と細胞分化が認められたが、サメにおいては類骨と造血巣の誘導が認められた。牛由来のコラーゲンを含む人工骨が鮫の組織と反応しないことは重大な発見といえる。胎児の世界では個体発生の各ステージで窒素の代謝も軟骨魚類、両性類、爬虫類、哺乳類と一致して変化するから、主要組織適合抗原も個体発生に一致して円口類、軟骨魚類に存在しないことが強く推察された。牛コラーゲン複合のアパタイト人工骨で、哺乳類に見られる組織反応がないということは、軟骨魚類に組織適合抗原がない可能性が考えられる。これを検証する目的で、組織の移植実験を行った。種々の組織移植実験の結果、サメ同志の皮膚移植、サメの筋層へのゼノプスとマウスの筋肉の移植がともに生着した。これらの成果は、従来の自己・非自己で成り立つ組織免疫学の基本概念を揺るがす重大な発見である。合成アパタイトを用いて移植された個体の間葉細胞の遺伝子の機能発現により、ハイブリッド様式で人工的に間葉系高次機能細胞を誘導する実験手法を実験進化学手法として開発した。 コラーゲン複合のアパタイトの人工骨には抗原性の問題とプリオン、クロイツフェルトヤコブ病の感染の問題である。コラーゲン複合アパタイトでは、生体材料となるコラーゲンをいかなる動物から得るかが問題となる。今日プリオンには対応するすべがないため哺乳類材料は近い将来先進国においては法律によってすべて使用禁止となる可能性が高い。原始脊椎動物に主要組織適合抗原がないとなれば、一気に2つの問題が解決される。
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