研究概要 |
授乳環境のアメニティを看護の視点から提案していくための基礎的研究を行った.特に産後間もない褥婦が昼夜を問わずに行う‘授乳の場'となる授乳空間を取り上げ,環境条件と褥婦の精神活動の関係を情緒工学的手法によって,授乳室環境のあるべき水準を包括的に明らかにすることができた. 初年度は,授乳室の室内環境の実態を調査・評価した.また褥婦および助産婦の意識調査を行いそれぞれの特性を抽出し,問題の所在を明らかにした.次年度は利用者の立場からの設計要求条件を抽出するため,建築学的手法から箱庭手法を用いた実験,さらに心理社会的調査手法のレパートリー・グリット法による実験を行った.最終年度は,これまでの研究で得られた成果を加味し,さらに,「母子異室看護方式の場合の授乳空間」と「母子同室看護方式の場合の授乳空間」を調査対象空間として,箱庭手法による調査・実験を行い,褥婦と助産婦が持つ授乳室と病室のレイアウトに対する評価項目を抽出した.さらに,設計者や研究者等が褥婦と助産婦が持つ授乳空間に対して,評価項目を簡便に知ることができるようにするために,「評価項目検索リスト」と「評価項目データーベース」から横成される「授乳空間レイアウトに関する評価項目リスト」を作成した. 加えて,褥婦同志の位置関係について,7パターンの椅子の配置例で順位付けの検証を行い,椅子の適正な配置等について実験的手法にて要求条件を抽出した.授乳経験の有無による比較を尺度距離で評価し,さらに配置例をクループ化し,配置例間のグループ間の差異をみた.また授乳室経験の有無の違いについて比較検討した.授乳環境を形成する要素として,授乳時の椅子の配置や位置が褥婦相互の心理的関係性を形成する上で重要な要素となることが示された. 今後の課題として,褥婦同志の距離,褥婦と新生児との関係,周辺環境との関係といった認知距離研究,また,授乳環境という特有な人間的な柔らかい空間のデザインを感性工学からのヒューマンウエアの追究が挙げられる.
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