本研究では、真偽の観点から評価される言明や主張ばかりでなく、真偽が問われることのない命令や約束をも服務言語行為全般を一貫した仕方で扱い、その中に意味論も位置づける言語行為の一般理論の構築のための基礎的研究として、特に言語行為の行為としての側面を研究した。初年度にあたる昨年度の研究において、発語内行為と発語媒介行為の比較によって、明示的遂行形式が存在するという意味で発語内行為が慣習的であるとしたJ.L.Austinの見解の正当性が確証されたことと、ウィトゲンショタインの言語ゲームをめぐる考察からヒントを得ることによって、発語内の力を意味の関数と見るJ.R.Swarle以来の言語行為の理論の公式見解が妥当でないと判断すべき強い根拠が得られたことから、本研究では、発語内行為の遂行に際して発語される文や発行される文書の意味と、遂行される発語内行為との関係を、状況理論における条件付き制約として記述するという方針をとり、行為者の持つ権限や資格といった要因によって、発語内行為が不発に終わったり不適切となったりしうるという、もともとのオースティンの観点をもとり込んだ方向で、理論の基本的な枠組みを構想してきた。本研究においては、さらに行為の一般理論を参考にすることにより、発語内行為の行為としての側面を捉えるためには、発語内行為が遂行されるということによってどのような変化が状況にもたらされるかを特徴づけることが必要であるという観点を導入した。こうした変化がもたらされる仕組みもまた条件付き制約として記述しうることから、本研究においては、語句の意味の発語内行為への寄与と発語内行為の慣習的な効力とが一貫した枠組みのもとで記述されうることが示唆された。また、こうした言語行為の諸特徴を扱うにあたって、発語内行為に特有の論理のようなものは必要できなく、状況に関する一般理論が十分に一般的な枠組みとなりうることも示唆された。
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