平成6年度における本研究の成果は概略、以下の通りである。 1)田中は環境論理学の現状を調査し、その一潮流たるディープ・エコロジーがもつ基本的なパラダイムを明確にした。従来の環境保護運動に根強く見られる人間中心主義に対する徹底的な批判を展開するアルネ・ネス、セションズなどのディープ・エコロジーはエコ領域を中心におく、強力な議論を展開するが、同時に多くの批判にさらされてもいる。とりわけエコ・フェミニズムからの批判が積極的な意義を有していると考えられるが、にもかからわらず、両者は「ケア」という視点を共有しており、この視点からの新しい環境倫理学の構築の可能性を確認した。 2)中澤はふるくはストーンズなどによって論じられた「自然の権利」の問題の現在までの展開をたどり、その意義を明らかにした。純粋に法律的な問題としての「自然に権利を付与すべきか」という問題と、「自然は道徳的な配慮に値するのか」という自然の価値に関する哲学的な問題とか無反省なままに混同され、問題をいたずらに錯綜させてしまっている。環境保護の手段としての「自然の権利」承認の議論に先立って、哲学的なレベルでの自然の価値の解明が必要とされている。以上のことが確認された。 3)中川は生態系についての因果論的なとらえ方を、心的現象の因果的説明に対する哲学的批判の議論をもとにして再検討し、生態系と人間の相互関係についての新たな説明を試みた。 4)以上の成果、および研究協力をした大学院生の成果をも含めて、吉谷が研究全体の総括を行った。
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