平成7年度は、前年度に収集・整理を行った基本文献や資料をもとに研究の取りまとめを行い、その成果を学会や研究会において公表することに努めた。「ナラトロジー」の方法論がこれまで最も生産的な形で適用され、成功を収めてきたのは歴史哲学、とりわけ歴史叙述理論の分野である。そのため本年度はまず「歴史叙述とナラトロジー」の問題を取り組み、客観的事実や歴史的真理と呼ばれるものがいかにナラトロジー的変形を受けているかを「記憶」と「過去」の関係を掘り下げることによって明らかにした。その成果は雑誌『へるめす』(岩波書店、隔月刊)55号から58号まで4回連載の形で公表し、また「〈社会科学の方法〉研究会」(於:東北大学)および「〈法律学と社会哲学の交錯〉研究会」(於:姫路獨協大学)において口頭発表を行った。 次に、科学のナラトロジー的分析を遂行するに当たっての手がかりを「コスモロジーの変遷」という歴史的事象の中に求め、17世紀の「科学革命」以後の自然科学の展開を「地動説革命」「進化論革命」「地球環境革命」という三段階の叙述構造の変遷に即して分析し、さらに科学的現言説において働くメタファーやアナロジーの役割について考察した。科学がナラトロジー的構造をもつことは、「科学概念」であると同時に「文化概念」でもあるというコスモロジーの二義牲に深く関わっており、そのことは現代科学のあり方に反省を迫り、文化概念すなわち「生存の秩序」としてのコスモロジーの復権を要請することにつながる。以上の知見は『思想としての科学』(大日本印刷)にまとめてあり、また「メディアスケープ研究フォーラム」および「広島大学比較文化研究会」において口頭発表された。ただ「科学のナラトロジー的分析」を方法論として確立する面については未だ考察が不十分であり、今後の課題としたい。
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