野矢は、まず分析哲学系の行為論を検討、整理し、それに基づき次の成果を上げた。(1)行為記述の生成関係として従来考えられていたものに、さらに「分析的生成」という観点を導入し、それによって行為論における意志の無限後退問題を解消した。(2)共同実践における可能な障害と調整の在り方という脈絡に着目することによって、「意図」概念を明確化した。(3)その意図概念の解明に基づいて、行為における身体の独自性を分析した。(4)新たな意図概念の説明と分析的生成という概念の導入によって、「行為」概念を明確化した。こうした構図は、後に詰められる細部とともに、「行為の規範理論」と呼べるであろう。(5)行為の規範理論に基づいて、自由の問題に見通しを与えた。これらの成果に加え、さらに言語行為とコミュニケーションの問題、および行為主体における一人称特権の問題へと研究を進め、それは現在も続行中である。門脇は現象学的行為論の研究に基づき、次の成果を上げた。(1)「行為」と「意図」の基礎的概念を整理し直し、それに基づいて行為における反因果説と因果説の対立を明瞭に定式化した。(2)フッサール後期思想において「信念」の志向性が、いかなるタイプの行為上のコミットメントとして機能しているかを明らかにし、これによって、従来曖昧なままだった「生活世界」概念の実践的性活を明確に主題化した。(3)ハイデガ-の行為論研究。まず、ハイデガ-の行為論が彼の存在論の全体の配置においてどのような位置価を持つかを確認し、ついで、ハイデガ-の行為論が『存在と時間』の哲学的言語の構造体の中でとる様態を解釈し、最後に、ハイデガ-の現象学的な行為論が反因果説の先駆的形態であること、および「世界内存在」なる概念が近代哲学の「要素主義」「表象主義」に反対する「実践的全体論」をなすことを示した。
|