本研究は1985‐87年における西独での在外研究に始まった。トマス・アクィナスへの新プラトン主義の影響を調べるためにプロクロス、『原因論』、トマスの三者の比較思想的研究を行なった。その結果、プロクロスはGilsonの言う「善の優位性の思想」伝統に、『原因論』とトマスは「存在の優位性の思想」伝統に属していることを判明した。以来今日まで、この西洋哲学史の二伝統の枠組みの中で、新プラトン主義の果たした役割を明確にしようとしてきた。本計画では今迄の一連の研究を基礎に、影響作用史の観点から、新プラトン主義の重要な思想源泉の一つであるプラトンの『パルメニデス篇』の「第一の仮定」の解明に向かった。そして以下の事情を明かにした。 同書における第一の仮定は「もし<->があるなら、その<->はXではない。」という形に定式化される。そしてXに入るものが探究され、Xとして「多」の特徴を持ったものが提出される。つまり、全体と部分、限定されたもの、形を持ったもの、どこかに存在するもの、動くもの、不動のもの、自己同一者、他者同一者、自己差異者、他者差異者、自己類似者、他者類似者、自己不類似者、他者不類似者、自己等者、他者等者、自己不等者、他者不等者、時間内存在者、存在者、一者、名前を持ち/説明され/知識があり/思惑され/感覚されるもの、などが挙げられて吟味され、それら全てが否定される。その結果、全面的に否定された<->が出現する。 この探究方法は徹底的な「否定の道」(via negativa)である。ここから「<->は何ものでもない」、シュタルバウムによればこれは「無限の一者」つまりunum infinitum nihilum、ということになる。これが、プロティノスからプロクロスに至る古代新プラトン主義の主流における「万有の根源」つまり「善一者」のひとつの重要な思想源泉となっている。以上を明かにした。
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