本年度も新プラトン主義の思想源泉と影響作用史の研究をなした。まず、新プラトン主義の影響作用史の研究は、プラトンの『パルメニデス篇』を新プラトン主義の思想源泉として捉えていく上で避けては通れないものである。後世の影響作用を見届けつつ源泉研究をすることはとりわけ重要であるからである。この研究成果を「プロクロスにおける「一者」の研究(三)-:ηνωμενονとεναδεζについて-」と「トマス・アクィナスにおける「一」の研究(一)-unumの観念について-」に著した。前者ではプロクロスの思想の内にプラトンの思想の展開が見られることを文献に即して示した。また、ηνωμενονはεναδεζからなることを示した。後者では中世のスコラ哲学者トマス・アクィナスにおいてもやはり新プラトン主義の影響作用が見られることを示した。しかしトマスではキリスト教によって古代新プラトン主義に若干修正が加えられていることをも示した。これらは何れもプラトンの『パルメニデス篇』に淵源する。 また、いま一つの研究は新プラトン主義の思想源泉の研究である。これはプラトンの『パルメニデス篇』の分析である。これも昨年に続いて『パルメニデス篇』における「第二の仮定」の解明に向かった。この「仮定」は西洋中世以後に影響を与えている重要な思想である。さらに歴史上のパルメニデスその人の思想の影響作用の一部を明らかにした。これを「新プラトン主義の影響作用史の研究(一)-西洋哲学史における自己認識-」に著した。ここではパルメニデス断片B3が、ソクラテスの影響下でプラトン、アリストテレスを経てプロティノス、プロクロス、そして中世からデカルト、ドイツ観念論に至り、哲学史上重要な「自己認識」に決定的影響を与えていることを示した。
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