研究概要 |
今年度は、表記の研究課題を遂行するために、先ず、ギリシア教父の伝統の一方の代表者たるアタナシオスとニュッサのグレゴリオスを中心として取り上げ、受肉と神化という根本問題についての論考をまとめた。キリストのいわゆる受肉,復活,そしてさらに神人性といった教義(ヒュポスタシス的結合)は、決して単に特殊な宗教的教義の枠内でのみ意味を有するものではなくて、それらは人間の自然・本性についての或る基本的な洞察を含むものであった。この点を存在,人間,個体(ペルソナ)などの諸問題との連関のもとに、今一度根本から問い直すことは、教父の哲学・神学の基本的動向を明らかにするため不可欠の作業であり、同時に又、現代の哲学的状況に対する反省の手がかりともなるであろう。この課題は、より広い歴史的視野に立って言うならば、ギリシア的本質主義がややもすれば形相(イデア・エイドス)の静止した一義的な場に依拠するのに対して、そうした実体把握、存在把握を突破するヘブライのダイナミズムの中心的位相を解明するための第一歩ともなりうるであろう。
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