研究概要 |
本研究の特色は,欧米で1980年代以降急速に進展しつつあるガンのヘンリクスの研究成果をわが国に紹介し,同時に,哲学史上これまでほとんど看過されてきた1時期に光を当てるものである.また,本研究の学術的意義は,これまでバラバラに論じられてきたヘンリクスの存在論と認識論を統一的に解釈することによって,当時の思想状況そのものの全体的理解に貢献することである.そこで平成6年度は,西欧13世紀の第4・四半世紀の思想状況を概観するため,「本質と存在の実在的区別」の説をめぐる当時の論争史を考察し,ヘンリクスの存在論の概要をまとめた.具体的には,以下の作業がなされた.1)ヘンリクス関連文献収集.2)上記1の文献の読解,コンピュータによるデータ整理.3)ヘンリクスの存在論の概要のまとめ.4)13世紀末の論争史関連文献収集.5)上記4の文献読解,コンピュータによるデータ整理.6)13世紀末の論争史におけるヘンリクスの位置づけ.以上の作業の結果として,次の知見が得られた.「存在と本質の実在的区別の否定」という説をめぐって,エギデイウス・ロマヌス(1243-1316)は,本質と存在の実在的区別を主張した.ガンのヘンリクス(?-1293)は,実在的区別を否定し,志向的区別を主張した.フォンテーヌのゴデフリドウス(1250-1306)は,実在的区別も志向的区別も否定し,実在的同一を主張した.
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