1.本研究の成果の一部として脱稿した「インド哲学における言語分析(4)」(印刷中)は、『ニヤーヤ・シッダーンタ・ムクターヴァリ-』「言語論の章」の一部の正確な和訳と、異分野のインド哲学研究者にも理解しやすい解説とを含んでいると確信している。このサンスクリットテキストでは、大きく分けると三つの主題が議論される。(1)語がその意味(または対象)を「直接」指し示す直接表示機能に関する議論、(2)語がそれによって暗示される意味を「間接的に」指し示す間接表示機能に関する議論、(3)文章中の諸語間に成り立つとされる三つの関係(相互依存症、適合性、近置性)と話者の意図に基づく文章分析に関する議論である。上記の論攷は(1)の部分を扱っており、語の有する直接表示機能を知るための八つの手段のうち四つ(類比、辞書、信頼に足る人の言明、言語使用)に関して、新ニヤーヤ学派と文法学派とミーマーンサー学派との間に見解の相違があり、それぞれの主張が具体的にどのような議論によって展開されたかを解明した。中世という時代では学派の主張の正統性の判断基準が論理的簡潔性にあるということも、本研究の成果である上記の論攷により明確となった。 2.本研究のもう一つの成果である。"The Structure of the World in Indian Realism and Its Schematization"(印刷中)は、インド論理学の研究で用いられる、本研究者の勘案した図式が、インドの言語哲学研究においても有効かどうかを論じている。言語哲学研究に適するように図式の改良を行う必要がある点を指摘しているが、基本的には有効であることを確認できた。この事は本研究の貴重な成果である。
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