平成6年度は本研究課題の初年度にあたるので、主に研究環境の整備に重点を置いた。まずコンピュータおよび周辺機器・ソフトウェアーを購入し機械処理の準備を整えた。近年、コンピュータの技術が進歩し、パソコン上でもチベット語を扱うことができるようになってきたが、そのために必要なチベット文字フォント、サンスクリット語転写用のフォント、ローマ字転写からチベット文字へのコンバータ-、同様にデ-バナ-ガリ-文字へのコンバータ-、データベース作成支援のユ-ティリティなどを作成した。これらの一部は個人的な使用を目的としているが、フォントやコンバータ-などは公開を前提として作成している。中でもサンスクリット語転写フォントはすでに希望者に配布を始めている。 また、西洋哲学・仏教学関係の資料を購入した。今回の研究課題である空思想は過去の思想ではなく、きわめて現代的な意味を持った哲学であり、内容的にも言語哲学・認識論・存在論など、主要な哲学的テーマに関わっているので、当該問題領域を精査するためにも現代哲学の諸動向に関する資料を努めて収集した。また、仏教は単なる哲学にとどまらず、生き方の問題に直結するはずのものであるので、宗教としての仏教を理解するための資料も収集・読解した。 チベット語文献の講読会を主催し、ツォンカパの『入中論』注釈を講読し、無自性や空の哲学的考察を進めた。ほかにチベット論理学の基礎文献の講読、倶舎論のダライラマ-一世による注釈の講読などを始めた。現在のダライラマの書いた仏教入門書の和訳・注解作業に関わり、従来難解とされてきた帰謬論証派の空思想の理解を深めることができた。また、中観思想の創始者ナーガールジュナの思想的意味についても考察を加えた。
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