まず基礎作業として、初期ロマン主義および初期ドイツ観念論の諸思想に関してこれまでにドイツにおいてなされた研究の成果を可能な限り収集することに努めた。設備備品費は、当初の計画に沿ってこのために使用された。 以上の基礎作業の上に立って「ドイツ観念論最古の体系計画」において構想された「新しい宗教」、ならびにシュレ-ゲルの「神話について語る」等における「新しい神話」の構想の内容を検討した。その際、個々の文献、個々の思想家を個別的に取り扱うのではなく、それらが共通の思想的な基盤の上に成立した点に注目し、その共通性、相互影響にとくに注意を向けた。またそのような構想を準備した思想(レッシング、ヘルダー、ノヴァーリス)と、それが与えた影響(シェリング、ヘーゲル、ヘルダーリン)をも視野に入れながら考察を行った。 この研究を通して明らかになった事柄の一つとして、初期ロマン主義、初期ドイツ観念論のなかで模索された宗教理論が、いわゆる「汎神論論争」、「無神論論争」の検討、批判的な受容から成立してきた点を挙げることができる。ヤコ-ビによるレッシングの「スピノザ主義」批判を契機として引き起こされた「汎神論論争」と、神を道徳的世界秩序として捉えたフィヒテの立場をめぐってなされた「無神論論争」の、それぞれの論争点を明らかにし、かつそれがシュレ-ゲルやシュライエルマッハ-、ヘーゲルやシェリングの宗教理論の形成にどのような役割を果たしたかを解明することを次の課題としたい。
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