1.研究費申請の主たる目的であった必要な文献資料、とくに十字架のヨハネ(Juan de ia Cruz)を中心とするキリスト教神秘主義関連の原典および研究書類の入手に関しては、十全とは言えないがほぼ所期の目的が達せられた。ただし、購入に予定以上の費用がかかり、交付された研究費は全額が図書購入費に充てられた。 2.それら文献を咀嚼しつつ並行して進められている神秘家テクストの読解・分析は、とくに筆者の中心的研究課題である十字架のヨハネに関して、これもほぼ予定範囲の進捗を見た。すなわち、一般にキリスト教神秘主義の頂点をなすとされる「神秘的合一(unio mystica)」なる事態を、彼がいかに語っているかに関する研究を、彼の最後の主著『愛の生ける炎(Llama de Amor Viva)』を題材に綿密に検討し、これを語る際に重要な役割を果たしている「中心(centro)」、「接触(toque)」、「かげ(obumbracion)」、「目覚め(recuerdo)」という四つのイメージをテクストから抽出し、それぞれの含みもつ「イメージの論理」を解明する論文を作成した。うち公刊できた論文は「中心」を主題とする一編のみだが、他に二編がほぼ成稿を見、一編が作成中である。これらと、既発表の成果を再編して、近年中に一冊の研究書として刊行を期している。 3.また西洋神秘主義全般に関する研究としては、筆者の研究の重要な方法論的背景をなす現代フランスの代表的神秘主義研究者ミシェル・ド・セルト-(Michel de Certeau)の業績について、その全体像および学問的・思想的意義を明確にする研究を行った。その一端は学会発表し、部分的に短論文として発表した。他に、近世西欧の神秘主義言語の重要な構成要素をなす「女性的」および「性的」言語の性格に関する系譜学的研究も行い、これといわゆる宗教心理学の成立原理との関連を探るかたちで、その成果の一部を発表した。
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