本研究の目的はキリスト教に淵源を有するカクレキリシタン信仰にあっても、その深層には東洋の諸宗教に共通なシャーマニステイックなタタリ信仰が存在することを彼らの行事や聞取りを通して明らかにすることであった。そのためにことに野立ち(野山における牛の悪霊払い)や家払い(家のなかの悪霊払い)に注目した。 生月におけるカクレキリシタンの家払い、野立ちの行事はこれまでにある程度行なってきたが、今回は生月のカクレキリシタン以外のかたがたにも面接を行なって、生月の民間信仰としての家払い、牛の行事について調査を行なった。その結果生月におけるあらゆる人々がなんらかの形で家払いを行なっているということが明らかになった。家払いは神主を呼んで行なう場合と祈祷師(ホウニン)を呼んで行なう場合がある。また生月は牧畜が盛んな所でもあり、牛神信仰が全島に強く見られる。すなわち悪霊のタタリということが未だに人々の間においては強く意識されており、祈祷師、ホウニン、物見等と呼ばれる宗教者の活動が目覚ましい。その他、荒神払い、シリョウ様(死霊様)に対する信仰もこの地域の特色といってよいだろう。 もうひとつカクレキリシタンの調査の中で注目させられたのは、彼らの間で解決困難な問題が生じたときの解決法である。そのような時には祈祷師を呼んで、カクレキリシタンの神である御前様の「お便りをきく」あるいは「お下がりを受ける」ということがなされている。カクレキリシタンの後継者を誰にするか、あるいは行事をどのように改革して行くかといった問題について、カクレキリシタンではない祈祷師が神の意志であるといって答えを出し、これに対して信徒は異議をはさむことなく受け入れて行くのである。
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