本研究の目的はキリスト教に淵源を有するカクレキリシタン信仰にあっても、その深層には東洋の諸宗教に共通するタタリ信仰が存在することを、彼らの行事や聞取りを通して明らかにすることであった。 そのために野立ち、家払い、初田様の行事、池祭り、牛神祭、祇園祭の調査を行った。 野立ち(野山における牛の悪霊払い)、家払い(家のなかの悪霊払い)、初田様(田植中、不慮の死を遂げたお初さんという女性を供養する行事)は純粋にカクレキリシタンのメンバーのみで施行される行事である。池祭り、牛神祭、祇園祭の行事はカクレキリシタン行事というわけではない。生月島山田の比賣神社の神主が行う神道行事であるが、参加者の多くがカクレキリシタンのメンバーである。 生月のカクレキリシタンの間に行われている諸行事は、純粋なカクレキリシタン行事であろうと、彼らが氏子として参加する神道行事であろうと、全て何らかの形で払いと清めという性格を有している。カクレキリシタン信仰の特徴は、生きて人間の幸不幸を左右する力を有する霊の存在を強く信じているところにある。霊を汚すことなく清らかに保つことによって幸せがもたらされ、反対に霊を汚すことによって不幸、災難、すなわちタタリが発生すると感じている。このことからもカクレキリシタンは本来キリスト教でありながら、その土着の過程のなかできわめて日本的なそれも神道的な発想の影響を強く受けていることが明らかである。これからさらに神道行事、ホ-ニン(祈祷師)が関わる行事を調査して行くことによって、いっそう明白にカクレキリシタンの神観念、ひいては日本の民衆の神観念を明らかにしてゆくことができるであろう。
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