本年度は、地球環境に対する人間の行動原理・行動指針の基礎づけとしての環境倫理学の性格を明確にしつつ、そのような基礎づけの課題のうちにどのような問題が含まれているかを明らかにした。 桑子は、行為と環境との関係を「牛鼻を穿つもの-環境と人間の哲学」で論じ環境と行為の相関関係の把握が必要であるという点を指摘した。「わたしとは霧に沈むもの」では、ギリシア哲学、近代西洋哲学、中国哲学、日本の自我論・身体論をベースにして、自我・身体・環境の関係に対して「身体配置」という新たな概念から接近を試みた。 一方鈴木は、選択と決定の問題として環境問題を捉え、特に行為選択の局面での行為者のもつ信念に注目し、欺瞞的な行為の際の信念と行為の関係を考察した。また、意思決定へと至る過程に現れる行為に関する推論の構造を「行為文の推論構造」において明らかにした。 研究の過程で浮かび上がってきたのは、とりわけ、人間の自然に対する行為の基底を支えている価値の問題である。価値の問題は、自然観・世界観の基層をなすものであると同時に、具体的な意思決定にも直接関わるものである。本研究の目的は、環境と行為・意思決定の関係を明確に捉えることであるが、研究を進めるなかで、この関係について「価値」の概念を媒介として捉え直す必要が痛切に感じられた。そのためには、環境に働きかける行為を行為一般として捉え、環境と行為を媒介する価値を、自然と人間との関係を支える普遍的な価値の問題として考察することに加えて、価値の概念へのアプローチを行為・身体・環境の三点から行うことが重要であるとの展望を得るに至った。
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