本年度は、環境倫理における行動指針、行動原理を「価値」の概念を媒介として基礎づけることを課題として研究を行ってきた。 桑子は、行為論の視点を機軸に、「価値」の概念の歴史的展望を踏まえて、地球環境問題の性格を捉え、環境倫理のあるべき展開を展望することを課題に研究を進めた。その研究成果の一つとして、『気相の哲学』(新曜社)を公刊した。ここでは、「身体」、「環境」、「行為」、「価値」、「所有」などをキーワードに、とくに環境に対する行動原理に「所有」の問題があることを示し得た。また、朱子学の自然環境に関する思想、および「時令思想」を環境倫理との関係で考察した。さらに、環境と人間の関係を捉えるためのキーワードとして提案した「身体配置」の概念について考察を深めた。 鈴木は、意思決定のプロセスの中で役割を果たしている価値判断を、地球環境問題に関する具体的な意思決定の場面で取り出し、これまでの研究に基づいて、それぞれの状況でどのような「価値」が決定を左右しているのかを考察した。 こうした考察の結果、さらに研究を要する課題として明らかになってきたのが、「人間と自然の相関における倫理的価値」の問題である。従来の環境倫理は、「豊かさ」や「繁栄」あるいは「権利」や「人格」といった価値の問題を環境の問題にどう適用するかという方向で考察されてきたわけであるが、本研究が示したことは、この方向を逆転し、環境との相関において成立する価値から、こうした概念を批判検討するが必要だということである。このことが今年度の研究において最大の収穫となった点であり、さらにこの問題をひきつづいて研究する必要があるという認識に至った理由でもある。
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