研究概要 |
本研究のねらいは、1980年代以降英語圏およびドイツ語圏を中心に急速な展開を示している「応用倫理学」を現代日本の社会的文脈に移し入れ、その実質的な展開をめざすとともに、研究過程で蓄積されるデータベースを可能なかぎり研究者・市民に提供する回路を開拓することである。本年度はまず応用倫理学の方法論を検討した。平成6年7月30日、私が研究分担者を努める科学研究費総合研究(応用倫理学の新たな展開)のワークショップにおいて、「応用倫理学の現況」という報告を行ない、主要な問題群にごとに争点をサ-ヴェイした。さらに、Winkler,E.R.and J.R.Coombs(eds.),Applied Ethics:AReader,Basil Blackwell,1993に収められた論文を手がかりに、応用倫理学の「方法論的ガイドライン」を提起した。これは、(何をなすべきか?)という問いを応用倫理学の出発点に据えるとともに、「権力」論的視点を活用しつつ、「公共的対話」を通じて社会に貢献すべきだとの趣旨である。夏休みから秋にかけては、拙著『現代倫理学の冒険』(創文社)の仕上げに主力を注ぎ、本年1月の刊行に漕ぎ着けた。執筆過程において、従来別個に作成していた文献データの文書ファイルを整理・統合する作業も行ない、パソコン入力の準備を進め、関連文献データおよび研究者データを活字として表現しておいた。当初の計画では、本年度よりパソコンのデータベース入力を開始する予定であったが、関連文献の爆発的増加と専門家のアドバイスに鑑みて、本年度は文献の購入と読解に的をしぼった。 今年度、文献の購入と読解に集中したことにより、所期の目標以上の文献に当たることが可能となり、その成果の一部は、拙著に盛り込むことができた。なお応用倫理学の個別領域の動向については、謝金を使用して3名の専門家から情報提供をうけた。雑誌論文の整理・製本も行なったので、次年度の研究態勢が整ったものと思われる。
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