本研究のねらいは、1980年代以降英語圏およびドイツ語圏を中心に急速な展開を示している「応用倫理学」を現代日本の社会的文脈に移し入れ、その実質的な展開をめざすとともに、研究過程で蓄積されるデータベースを可能なかぎり研究者・市民に提供する回路を開拓することであった。最終年度にあたる本年度は、昨年度刊行した拙著『現代倫理学の冒険』(創文社)にまとめた関連文献データおよび研究者データの拡充を行ない、後半は新規に購入したパソコンを活用してデータベース化を進めた。これらの作業と並行して、従来の応用倫理学に欠落していた《教育》学とのネットワーキングを開始し、阪神・淡路大震災の被災者の生活再建という《応用問題》に「ケアと正義の統合」という観点から取り組んだ(『未来』1995年5〜7月号にその一部を報告し、神戸大学医学部教授の中井久夫氏と雑誌『へすめす』59号で対談するに及び、彼の編著に論文を寄稿した)。さらに研究分担者を務めてきた科学研究費総合研究(A)研究代表者=佐藤康邦「応用倫理学の新たな展開」の研究成果報告書にも執筆し、補充したデータベースの一部を公開した(「応用倫理学のトラスフォーメーション--《マイクロ・エシックス》の活用にむかって」)。なお応用倫理学の個別領域の動向については、謝金を使用して2名の専門家から情報提供をうけ、重要な雑誌論文の整理・製本も行なった。以上で所期の研究目標はじゅうぶん達成されたものと総括している。今後さまざまな場で応用倫理学の真価が問われるようになると予想されるので、今回の研究成果をできるだけ早くパソコン通信上で提供できるよう整備したい。
|