本年度は研究期間3年のプロジェクトの初年度であり、主として故井筒博士の思想的営為の領域を明かにするための作業をおこなった。この作業は三種類に分けられる。第一は井筒博士の厖大な蔵書の調査。第二は井筒博士の著作の整理。第三は井筒博士と交流を持った人々とのインタビューである。第一の蔵書の調査の結果、約三千五百冊の極めて資料的価値の高いアラビア語、ペルシア語、オスマン語の哲学、神学、文学等に関する文献が蔵書中に含まれていることが明かになった。一、二の例を挙げると、Sayyid Murtada alam al-Huda:al-Shafi fi-l-imamah(テヘラン、1315年石版)。al-Qushji:Sharh Tajrid al-Kalam(ダブリーズ、1274年石版)。Anqarari:Sharh-i Mathnavi(イスタンブール1289年)。などである。これらの古い版本には欄外に別のテキストが印刷されているものもあるので、さらに詳しい調査が必要である。 第二の井筒博士の著作の整理については、ほぼ著作の全てを蒐集することができた段階である。ただし、戦前に陸軍等からの依託調査報告書を井筒博士が匿名で書いたと思われるものがあるのでこうしたものについてさらに詳しい調査が必要である。 第三の井筒博士の知人とのインタビューについては牧野信也氏、澤井義次氏、中根千枝氏、井筒豊子氏等とインタビューをおこなうことができた。また、ジャック・デリダ氏、H・ランドル氏、N・アルダラーン氏等の海外の人々とは文書によって井筒博士の思想と人となりについて情報を得ることができた。井筒博士と交流のあった人々の中には既に故人となった人々も多い。まだ存命中でインタビューをしていない人々もいるので、早急にこれらの人々に直接意見を求めておくことが必要である。
|