本年度の研究計画4項目のうちの最も重要なもの、A.ロックの「行為の自由」概念の解明については、かなり順調に研究が進んだ。『人間知性論』2巻21章の議論を、現代のニディッチ版だけでなく初版から第5版までを参照しながら整理した結果、ロックの錯綜した議論は、版ごとの追加を削除すればかなり統一的に理解できるものと判明した。21章の解釈に関連する彼の書簡や初期の作品も検討し、最近の重要な文献(特にLock's Philosophy:Content and Context1994所収のVere Chappellの論文)も通読したので、「行為の自由」と「意思の自由」に関するロックの見解について、従来の研究水準を越える論文をやがてまとめる予定である。そのためには、ロック自身の見解がどこまで哲学的批判に耐えうるかをよく検討しておかねばならない。これは今後の課題である。項目D.「行為の自由」と政治的・社会的自由との関連についても、研究は順調に進んだ。ここでもロックの見解を批判的に考察しておくことが、ロック理解にとっても彼の洞察の再生にとっても重要であると思われた。 項目C.現代の分析にもとづくロックの再構成と批判的検討については、文献はかなり揃えたが、問題設定が多岐にわたり議論がきわめて現代的であるために、本研究に使えそうなものは簡単には見つからなかった。この作業はさらに続行する必要がある。最も困難であったのは、B.自由意思と決定論に関する17世紀の論争の思想史的解明である。参考文献の少なさ、資料収集と解読の難しさといった壁にぶつかり、僅かしか作業が進まなかった。ロックとホッブスの関係を示す新しい証拠をひとつ押さえたが、ルクレールなどマイナ-な思想家に関しては、資料もあまり集まっていない。今後はロックの議論と密接な関連のありそうなものに的を絞りたい。
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