自由主義の祖とされるジョン・ロックについては、英米を中心として、その思想内容が様々な方向から研究され、膨大な量の研究成果が蓄積されてきた。本研究では、この研究成果を踏まえた上で、いまだに十分に解明されていない「自由」に関する一つの問題群を取りあげた。この問題群は、「自由」に関わる二つの基本問題を含んでいる。第一は、ロックにとって、「行為の自由」とはいかなるものであり、それはどの程度、いかなる根拠に基づいて成立するものかという問題、第二は、「信教の自由」とはいかなるものであり、それはどの程度、いかなる根拠に基づいて成立するものかという問題である。これらの問題の考察は、ロックの自由主義政治哲学において「行為の自由」と「信教の自由」はどのように関連するかという第三の付随的問題も提起する。本研究では、これら三つの問題に対して哲学的および思想史的立場から解答を与え、ロック自由主義政治哲学における「自由」概念の理解を深化させようと試みた。研究成果報告書の第1部では、『人間知性論』での自由意志についての錯綜したロックの議論を各版の異同やリンボルクとの書簡に基づき整理し、「行為の自由」の成立根拠を検討し、「行為の自由」と「政治社会での自由」の関連を解明した。第2部では、ロックの『寛容書簡』等に見られる「信教の自由」の根拠を詳細に分析し、現代の解釈を批判し、ロック自身の見解も批判的に検討した。この考察にもとづいて「行為の自由」と「信教の自由」を関連づけたが、それは異質な自由でありながらも、知性の独立という基本主張によって根底で支えられていることが判明した。報告書第3部では、知性の独立に関するロックの論考『知性の正しい導き方について』の主要部分の翻訳を資料として提示した。これは第1部と第2部で自由と知性の関係を考察するための参考資料である。
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