研究概要 |
今回の研究においては、主としてJohannes de MurisのMusica speculativa(1323)とJohannes BoenのMusica(1357)を中心に、14世紀における「調和数numeri(h)armonichi」の観念の発展と音楽理論的思考の変貌との間の関連性を考察した。 14世紀における「調和数numeri(h)armonichi」をめぐる考察は、アリストテレンが『霊魂論De anima』においてプラトンの世界霊魂分割の基礎とした数について触れた1節(I,3,406b28-29)への注解と密接に結びついている。すでに13世紀後半にThomas Aquinasは、『霊魂論注解』(33b以下)で調和比proportiones harmonicaeを「諸協和音の原因consonantiarum causa」として重視した。それを端緒として「調和数」の哲学的・音楽理論的意味をめぐる探求は、パリ大学のCollege de Navarreを中心に活動した学者たち、とくにPhillipe de Vitry、Nicole Oresme、Johannes Boenへと継承された。当初の予想とは異なり、Johannes de MurisのMusica supeculativaは、「調和数」の観念自体の発展には直接的に関係していない。しかしこの書はBoethiusのDe institutione musicaの単なる要約ではなく、当時の学問再編に伴って音楽理論(musica)を新たにscientia mediaとして位置づける役割を果たした。Johannes BoenのMusica第4巻は、Philippe de Vitryの影響のもとに「調和数」を「ピュタゴラス音階のすべての諸音程と協和を規定する数的基礎」として定義しており、これによって「調和数」は、音楽の理性的・自然学的基礎づけという意味を担うにいたる。他方「調和分割harmonica medietas」への関心は、14世紀のポリフォニ-音楽の骨格をなすオクターヴを下方5度・上方4度に分節する響き(いわゆる「空虚5度」の響き)の重要性の意識と密接に関連していることが明らかとなった。
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