昨年度に続き、今年度もユリウス・カエサル・スカリゲル『詩学七巻』の翻訳・注解の作業に基づいて、その美学史的研究を行なった。その際、Thesaurus Linguae Graecae(ギリシア語文献のCD ROM)を最大限に援用した。 また、ドイツで刊行の始まったラテン語-ドイツ語対訳Julius Caesar Scaliger Poetices libri septem Sieben Bucher uber die Dichtkunst (Manfred Fuhrmann監修 現在 BandIIIまで刊行)を参照しつつ、自らの日本語訳に検討を加え、一層の解釈の深化を計った。ルネサンス研究が詩学の分野の古典文献学的研究にまで拡大されつつある現況は、自らの研究の方向性に裏付けを与えてくれた。 研究を通じて明らかにされたのは、『詩学七巻』がプラトン主義、アリストテレス主義、ホラティウス主義などの古典詩学の影響下にあるとともに、弁論術的伝統を色濃く留めていることである。『詩学七巻』の構想そのものの理解には、詩学と弁論術の相互影響関係を歴史的に見定める必要がある。そのために、目下、キケロ、クインティリアヌスを中心とした弁論術関連文献の研究・翻訳を進めている。そうすることで、スカリゲル、ひいてはルネサンス期の詩学理論の原理的基盤が実証的に明るみに出されるものと期待される。今後、Thesaurus Linguae Latinae(ラテン語文献のCD ROM)を活用してそうした枠組みの解明に努めたい。
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