研究概要 |
昨年度行った実験研究の成果を踏まえ、本年度は理論的考察を行い、「視覚と触覚の関係」に関する論文を作成した(吉村、1996)。変換視状況への知覚順応過程の検討を通して、一般に触運動的(自己受容感覚的)身体表象と考えられるものから視覚成分を排除することはできないのとの論を展開した。論文の中では最後に視覚、触・自己受容感覚、聴覚のそれぞれのチャンネルを通して受け入れられる情報がどのような道筋で空間表象に至るかについてモデルを提案した。 また、本研究の補助を受け、これまで進めてきたわが国における変換視研究の組織的展開に関するレビュー論文を完成させた(Yoshimura,1996)。1960年、牧野らによりわが国の視野変換めがね長期着用実験が開始されて以来、これまでに37回の多きにわたり変換視研究を重ねてきた歴史を跡づけ、その研究成果の概要を海外に紹介する目的で、英文による論文作成を行った。その成果を、国際的な英文雑誌“Psychological Research"に掲載できることになった。これにより、これまで世界で最も集中的かつ高水準に行ってきたわが国のこの分野での研究が、いよいよ世界的に評価される礎が築かれることになった。 このレビュー論文では、これまで行ってきたわが国での実験の概要を紹介するに留まらず、知覚順応の全体像を捉えた順応図式も提示した。そこでは、視覚や触・運動感覚(自己受容感覚)から上ってくる感覚情報(ボトム・アップ情報)のみならず、高度な認知的枠組みに基づいて変換された視野に立ち向かう被験者の用いるトップ・ダウン情報も重要な役割を果たすことが主張された。さらには、感覚間相互作用による調整過程のみならず、受け入れた感覚情報に基づき外界に対してはたらきかけることの大切さも、提案された図式の中で主張された。
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