研究概要 |
[目的と方法]20人の右利き大学生を対象に、入眼時幻覚の有無と脳波トポグラフィ特徴の対応関係を検討した。入眼時を脳波パタンの特徴から、(1)α波期、(2)平坦期、(3)θ波期、(4)鋭波期、(5)紡錘波期の5段階に分類した。段階判定は5秒間のスポット判定とした。各段階で音刺激(1000Hz,50dB,Max5sec)を呈示し、反応時間を測定するとともに覚醒させて、直前の心理体験を聴取した。音刺激の呈示は各段階で10回以上、段階の順序はランダムになるようにした。脳波トポグラムは刺激の直前5秒間の脳波を12部位についてパワスペクトル分析し、θ、α、βの3帯域毎に作成した。[結果と考察]1.音刺激に対する平均反応時間は、α波期から紡錘波期へと直線的に増加し、この増加は有意であった。2.内省報告は(1)通常の思考、(2)入眼時幻覚、(3)内容の忘却、(4)無体験の4っに分類して、各段階毎に報告率を求めた。脳波段階の以移行伴って、(1)通常の思考は減少し、(2)忘却は増加した。これらは覚醒水準の低下を反映したものと考えられる。一方、入眼時幻覚はθ波期をピークとする逆U字型の分布を示した。3.脳波トペグラフィ特徴を左右の半球でそれぞれ平均パワを求め、左右差指数(L-R)/(1+R)を算出した。θ帯域の指数は幻覚体験がある時には報告率と同様に、脳波段階に対して逆U字型の分布を示した。一方、幻覚体験の無いときの指数は段階間に差が見られなかった。左半球のθ帯域パワが大きいほど、幻覚体験の報告率が高い。このことは、幻覚が左半球の活動性低下を背景に生成されていることを示唆している。4.頭皮上を前後左右に4分割して、各領域の相対振幅値を比較すると、右後頭領のα帯域の振幅値は幻覚があるときに相対的に高く、脳波段階に対して逆U字型の分布を示すことが分かった。入眼時幻覚は右後頭視覚領の活性化がその発生に関与していることが指摘された。
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