十分成熟した3ケ月齢の片眼が摘出されたアルビノラットに白黒弁別学習課題を与え、獲得後、残存眼と反対側の皮質視覚野を破壊して、再び同じ課題で訓練すると、出生直後に片眼を摘出されたラット(OEB)は、3ケ月齢で片眼を摘出されたラット(OET)より速く再学習することができた。これは出生直後の片眼摘出によって残存眼と同側の視覚神経路系(UXVP)が補償的に再編成したためであると考えられた。このようなこれまでにわれわれが確認した成果にもとづいて本研究を進めた。まず、このような視覚の機能高進には解像度の向上が考えられたので、平成6年度、平成7年度にかけては、縦縞、横縞の弁別を行ってその点を調べた。われわれはこれまでアルビノラットを用いて研究を行ってきたが、この研究には視覚能力が高い有色系ラットを被験体として用いた。その結果、30mmの縞の弁別の再成立にはOEB、OETの差はなかった。しかし、反対側皮質視覚野破壊後にはじめて課題を与えると、OEB、OETとも弁別学習が成立しなかった。いったん学習した後、UXVPを用いて再学習するとかなり狭い幅の縞模様を弁別できたが、OEB、OETの弁別可能な縞幅の差は、初めに考えられたほどの大きなものではなかった。このようなことから、OEBの視覚能力の高進は、最初に仮定された解像度の向上によるのではなく、別の機能によることが考えられた。 これまでわれわれは片眼摘出による補償作用を見てきたが、解像度では説明できない点が出てきたので、視覚の中でもより高度な認知能力という点から考えることにした。それには皮質の機能が大きく関与すると考えられたので、皮質そのものの補償機能を調べることとした。そのため幼若時に残存眼と反対側の皮質視覚野を破壊して、その補償効果を見たが、OEB、OETとも大きな効果が現れた。現在はこの点を研究中である。
|