マカクザル下部側頭回TEO野は、その摘除により重篤な図形弁別障害が生じる事から、形態弁別に必須の領野と考えられてきた。本研究の目的はこの概念の再検討である。実験の動機は、最近の解剖学的研究で、TEO野がこれまでのTEO野摘除域のうち隣接上側頭溝域を含まない事がわかったことによる。本年度は、それぞれ脳回TEO野、隣接上側頭溝域に限局した摘除の効果を、図形弁別術後保持について調べ、その結果を従来型TEO野摘除ザル及び正常ザルの結果と比較し上記概念の検討をした。 被験体として8頭の日本ザルを用いた。実験群として4頭のサルに脳回TEO野摘除を行い、手術統制群として4頭のサルに隣接上側頭溝腹側壁+溝底摘除を行った。皮質摘除はネンブタール麻酔下で、吸引法により、無菌的に、両側性に行った。テスト装置として、ウィスコンシン式一般テスト装置(WGTA)を用いた。テスト課題として+対□図形弁別課題を用いた。同課題を手術前にサルに学習させ、手術後の保持テスト成績を調べた。 脳回TEO野摘除ザル4頭の+対□図形弁別の術後保持テストにおける基準達成平均試行数は105試行で、これまで得られた正常ザルの平均3試行に比べ有意に多かったが、従来型TEO野摘除ザルの平均2215試行に比べて極めて少なかった。一方隣接上側頭溝領域摘除ザルの平均試行数は23試行で、正常ザルとの間に有意差はなかった。 本知見は、脳回TEO野あるいは隣接上側頭溝領域に限局した摘除では、図形弁別が殆どあるいは全く障害されず、従来型TEO野摘除による重篤な図形弁別障害は両領域の同時摘除によるものであった事を明らかにしている。
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