マカクザル下部側頭回TEO野は、その摘除により重篤な図形弁別障害が生じる事から、形態弁別に必須の領野と考えられてきた。本研究の目的はこの概念の再検討である。実験の動機は、最近の電気生理学的研究で、TEO野がこれまでのTEO野摘除域のうち隣接上側頭溝域を含まない事がわかったことによる。 被験体として日本ザルを用い、脳回TEO野摘除と隣接上側頭溝領域摘除の効果を調べ、当研究室で得られた正常ザルと従来型TEO野摘除ザルの結果と比較した。テスト装置としてウィスコンシン式一般テスト装置(WGTA)を用いた。 脳回TEO野摘除ザルは図形弁別術後保持テスト及び術後初学習課題で正常ザルに比べ成績が悪かったが、障害の程度は従来型TEO野摘除群に比べ極めて軽かった。一方隣接上側頭溝領域摘除ザルの術後保持における成績は正常ザルとかわらず障害は見られなかった。 次に図形寸法のみが順次縮小される図形縮小刺激系列と図形と背景カード共に縮小される図形・背景縮小刺激系列で、下降および上昇系列法で弁別閾値を調べた。脳回TEO野摘除ザルはいずれの課題でも正常ザルに比べ弁別閾値の上昇を示した。従来型TEO野摘除ザルに比べると図形縮小刺激系列での弁別閾値はより低く、図形・背景縮小刺激系列での閾値は同程度であった。 これらの知見は、脳回TEO野摘除ザルの図形知覚が正常ではないにしても障害の程度は従来型TEO野摘除ザルに比べはるかに軽微であること、従来型TEO野摘除による重篤な図形弁別障害は脳回TEO野と隣接上側頭溝領域の同時摘除によるものであった事を明らかにしている。
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