本研究では、日常的な事象体験を知識獲得の主要な手段としている幼児を主な対象に、幼児期の事象体験(すなわちエピソード記憶)から抽象的な知識(命題的知識への変化過程、反復経験によるスクリプトの形成過程、日常生活体験に基づく空間関係の長期保持について検討することを目的としている。 本年度は以下の諸点の検討を行った。 1.事象記憶ならびにスクリプトに関する文献の収集、整理を行った。障害児に対しスクリプトを獲得させることにより日常行動の改善を計ろうとする治療研究が、欧米で試みられていることが分かった。これは当初考慮していなかった、スクリプトの実践的応用例であった。 2.幼稚園時のスクリプトが卒園後どの程度保持されているかについて小学1、3、5年生を対象に行った。学年による差異は少なく、幼稚園経験で獲得されたスクリプトが長期に渡り保持されていることが明らかになった。 3.幼稚園の建物についての空間配置関係とエピソディックな記憶の検討を小学1、3、5年生を対象に行った。空間配置は高学年ほどより適切であった。 4.幼稚園行事の命題的記憶化過程の検討については、新入幼稚園児3歳児、4歳児を対象に、彼らが幼稚園で初めて体験するプール活動の前後の行事系列(椅子運び、水着準備、着替え、準備体操、シャワー浴びなど)の習熟過程の観察を行った。遠足についての命題化については幼稚園の日程の都合で7年後に詳細な検討を再度行う。
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