研究概要 |
本研究では,日常的な事象体験を知識獲得の主要な手段としている幼児を主な対象に,以下の諸点を検討した。 1.幼稚園生活における反復体験によるスクリプト形成過程について、お弁当活動を取り上げ、教師の援助過程と幼児のスクリプト知識変化の2つの側面から検討した。教師の援助過程では、食べることの促しや幼稚園での食事のルールとならんで幼稚園での食事スクリプトの確立に関わる発語が、入園当初に多かった。幼児の知識変化では、幼稚園生活が進むにつれ、また在園期間が長いほどお弁当活動に関わる事象の報告数が増加した。 2.幼稚園生活における行事という非日常体験のエピソード記憶と行事の命題的知識化について、遠足を取り上げ検討した。1回の遠足体験しか持たない場合、遠足とはそのときのエピソード体験をさすものであるが、遠足体験を重ねることで、具体的なエピソードへの言及は減少し、より一般的な事象への言及の割合が増加した。体験のなかの共通の事象を抽出することで、概念化がなされていることが示唆された。 3.幼稚園生活の長期的保持について、毎日の活動を通して獲得された幼稚園生活スクリプトと教室等の空間的配置を取り上げ、同一幼稚園を卒園した児童を対象に検討した。幼稚園生活のスクリプトの保持では、下位構造の要素部分は失われていたが、生活の中心的な部分は保持されていた。空間関係の保持では、幼稚園生活の最後の年を過ごした年長時点でのクラスの位置が最も正確に位置付けられた。児童の学年差はなく、認知地図はかなり長期に保持されることがわかった。 幼児は日常生活を通して多様なスクリプトを形成しており、彼らにとって多様な事象体験は認知発達上重要な意義をもつ。また教師の行っているスクリプトの獲得の援助は、幼児の園生活をスムーズなものにしている。
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