欧米文化においては、極め強力な証拠をえている「自己を他者より優れた望ましいものと考える傾向(self-serving bias)」が、日本ではみいだされない。では、日本人では自己を他者より限りなく劣位に位置づけているのか。これまでに、日本人の場合、「周囲の他者」と比較しての対等性と、「一般的他者」と比較しての漠然とした優位性というかたちで自己を認知していることが明らかにされ(遠藤、1993)、日本人の自尊感情はこの二重性の上に成立している可能性が示唆された。 そこで本研究では、「日本人の自尊感情の二重性」を一般化できるか、またどのような特質がこの二重性と関わっているかを明らかにすることを目的とした。調査対象は大学生である。調査は、独立-相互依存の自己観尺度、自尊感情、日本人論などを参考に特に日本文化において重要な次元と思われる20項目を用いた自己評定と他者評定から構成された。自己観尺度に基づき、相互依存群62名、独立群65名が被験者として抽出された。自己/他者評定の結果、相互依存群ではいずれの項目においても、自分は人並み以上であると認知していたが、「周囲の他者」を凌ぐことは決してなく、自己に対して肯定的な項目においてさえせいぜい「周囲の他者」とほぼ同列であり、多くの項目では自己は「周囲の他者」より劣位に置かれていた。他方、独立群においても、自己を人並み以上ではあるが「周囲の他者」以下であるとする認知傾向はみられるものの、相互依存群とは異なって、自己を「周囲の他者」より優位に位置づける面もみられた(「信念を貫く」「自分のやりたいことをしている」の2項目)。これらの結果から、日本人の自尊感情の二重性は広く認められるものの、それは相互依存的自己観と特につよく関わっていることが示唆される。
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