攻撃動機の形成・発達と親の養育を中心とした子供の社会化の関係を縦断的手法により検討した。具体的には、子供の5〜6歳時点における母親の養育とそれに対する子供の反応を一次研究とし、子供が13〜14歳になった時点での攻撃動機、及びそのカウンターパートとしての利他的動機の測定、子供側から見た幼児期における親の養育、母親の回想的養育と現在の子供との関係を二次研究として、上記要因それぞれの関係の分析から総合的に検討を行った。その結果全体として以下のことが明らかになった。(1)親の養育の在り方やその考え方が子供の攻撃動機の形成と発達に大きな影響を及ぼすことは明白だった。(2)上記のうち、母親との関係は特に重要なものであるが、家族構造についても重要な関連が示された。(3)母親の養育行動やその意図は往々にして、それらを受け止める側の子供の知覚とズレや不一致を示すことがあった。(4)幼児期における統制的な養育がそのまま持ち越されることが、思春期における母子関係の葛藤の主要な原因となり得る。(5)攻撃動機と利他的動機の関係については、必ずしも一次的に攻撃動機の低さが利他的動機の高さにつながるという負の相関関係に集約されるものではなく、両動機の下位構造を考慮に入れねばならない(攻撃と攻撃抑制、規範的利他性と共感的利他性等)。(6)攻撃動機の測定により分類された高攻撃群と低攻撃群は3種類のSO-Sit(母親用第1版、子供用、母親用第2版)においてそれぞれ異なる関係を示した。概して、子供用では高攻撃群の母親にイライラや怒りっぽさ、子供との葛藤の多さが示されていた。これに対して母親用では、低攻撃群の母親が高攻撃群の母親に比べて母子間の調和的関係への志向性が高かった。更に、母親用第1版では高攻撃群の母親が比較的に子供の攻撃を受容しているのが特徴的であり、母親用第2版では低攻撃群の母親の子供への共感的行動が目立った。
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