1988年9月、南極研究科学委員会(SCAR)の中に極地-宇宙に共通に関連する要素としての閉鎖・隔離環境下での人間要素についての研究グループが発足したことが示すように、極地での越冬生活は長期宇宙有人飛行とは、微小重力の点をのぞき、様々な点で共通の要素を持っており、人間に関する諸要素を研究する最適のシミュレーションの場として考えられている。このような背景のもとに極地心理研究(PPP)が南極に越冬基地を持つ数カ国で開始され、日本においては、1990年11月に出発した第32次南極地域観測隊を最初として、1994年3月に帰国した第34次隊まで、足かけ5年にわたって3隊、総数107名の昭和基地越冬隊員に実施された。 これら3隊の比較における顕著な差はまず、回収率の差である。最初の隊である第32次隊は越冬の前・中・後期を問わず常に高い回収率(91.3%)を示したのに対し、第33次隊では越冬の経過とともに回収率は低下し、最終回ではわずか11.1%であった(平均回収率は66.1%)。第34次隊ではちょうどこれら二つの隊の中間型であったが、最終回には同様に30%台まで低下した(平均回収率は80.6%)。これは回収率がこのプロジェクトの直接あるいは間接の実施者と隊員間の人間関係に大きく依存していたことが帰国後のインタビューなどで明らかになった。テストの質問形式との関連で見てみると、選択式よりも記述式において回収率が悪い。とくに一種のソシオメトリー・テストである対人反応尺度では、個々の名前を記入するという行為の故に回答そのものを拒否される場合が多く見られた。この点は国際比較において、日本とその他のテスト実施国との顕著な相違点として注目されている。
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