南極での越冬は物理的に閉鎖・隔離された環境であるばかりでなく、そこで一定期間、限られた人間とのみ生活を送らなければならない点で精神的にも閉鎖・隔離された環境であるといえる。この様な環境下で生活する上において最も問題となってくるのは、人間関係から派生するいろいろなことがらである。個々の人間の適応に関しては、隊員選抜時の各種心理検査や精神科医による面接によってある程度は推し量ることが出来るであろうが、南極越冬のような非常に特殊な環境下では、集団内における適応が非常に重要になってくる。1990年から1994年にかけて実施した様々な心理テストによって、これら諸要素を抽出することを試みたが、今回使用したテストバッテリ-では十分に解明することが出来なかったように思われる。その理由の一つとして、被験者としての越冬隊員のほとんどがこのような質問紙に対して「建て前式」の解答に終始したことから、高い心理的バリアーが存在したことが考えられる。このような状況にあって、彼らの「本音」を聞き出したり、や集団内での適応を計測する手段としは現場での構造化面接の実施や行動観察が最も妥当であるように思われる。行動観察を実施した第32次隊においては、集団内で不適応を引き起こしたもの同士が小集団を形成、維持したが、彼らはこのことによって精神的な安定をはかっていたように思われる。また望ましいリーダーとしてある程度は隊員の自由裁量にまかせるような自由放任ないしは民主型タイプが最適であったように思われる。
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