本年度は、第1段階として記述的、エスノグラフィックなデータを収集した。「よい気分/感情」と「悪い気分/感情」にまつわる日米両国における代表的状況を、日米の大学生(京都大学90名、オレゴン大学83名)を対象に調査した。理論的検討から、「よい気分/感情」「悪い気分/感情」の性質は、それぞれの文化の背景となっている人間観を反映していると考えられる。そこで、まず「よい気分/感情」の状況の性質をみるために、被験者にいくつもの望ましい情動語(うれしいなど)を提示し、これらの感情を経験する状況を最高30まで、できるだけたくさん記述するよう求めた。次に、「悪い気分/感情」の状況の性質を見るために、いくつもの望ましくない情動語(怒りなど)を提示し、同様の記述を求めた。この結果、日米の双方の状況とも、いくつかのカテゴリーに分類できることが、明らかになった。特にそれぞれの状況で頻度が高かったのは、「よい気分」の状況では、「自らの成功」「人間関係の充実」であり、「悪い気分」の状況では「人間関係のきしみ」「目標達成の阻害」であった。現在これらのカテゴリーを含む分類システムに基づいて、これらの状況の性質の文化差について、詳細に検討している。 次に、この結果を受けて、第二段階である実験的手法を用いた研究をおこなう。現在までのところ、第一段階において採取された状況の中から日本とアメリカのデータそれぞれから200をランダムに抽出し、アメリカ産の状況は日本語に、日本産の状況は英語にそれぞれ翻訳するところまで終了した。以後、これらの状況の知覚についての実験的データを収集する予定である。
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