平成6年度は、研究対象となる子どもの心理発達を適格に描いた絵本を収集するために、4カ所の洋書・和書専門店(高松、西宮、東京)および宇都宮絵本図書館(宇都宮)、日比谷図書館児童図書資料室(東京)、大阪府立夕陽丘図書館児童図書資料室(大阪)、大阪国際児童文学館(大阪)などに出かけた。その結果、数多くの新刊・既刊および絶版絵本を購入ならびに借り受けることができた。その数は、絶版洋書絵本30点、新刊・既刊洋書絵本246点、新刊和書絵本127点、合計403点であった。 これらの新規収集絵本と平成5年度までに収集していた鳴門教育大学児童図書室の約1500点の絵本を対象に、「絵本心理学」を構築するための基礎的分析を進めた。分析視点は、6項目のSubject Heading-「生活と自立」「自己・自我形成」「友達・遊び」「家族」「子どもの心」「性格」-とそれにつらなる約220のSubjectであり、現在これらのSubjectを複数検索で組合せることのできる新しいComputer Systemがほぼ完成している。 今までの分析から得られたことは、「自己像の形成」「性格形成」「父子関係」「感情発達」「ユーモア」「想像性」などの分野では、欧米の絵本作家の子ども像と発達観が、わが国のそれと比較すると質量ともに豊かであることである。 特に、子どもたちの認識対象ではなく、想像の対象を分析し、描く「ファンタジ-絵本」は圧倒的に欧米諸国のもの優れている。それらは、外からは見えない子どもの個性的な想像世界における空想の「非論理の論理」を、作家の優れた資質を生かし分析・考察している。発達心理学の発達観にいま必要なことは、外在する諸対象の科学的認知の論理だけはなく、子どもの遊びの世界にみられる想像的産物やイメージを解明し、それに存在論的価値を与えることではなかろうか。
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